東京高等裁判所 平成3年(ネ)3307号 判決 1993年12月21日
控訴人
株式会社治
右代表者共同代表取締役
ショベイリ・セイエド・アハマド
同
中山公太郎
右訴訟代理人弁護士
板垣範之
被控訴人
株式会社初穂
右代表者代表取締役
豊島幹男
右訴訟代理人弁護士
若梅明
同
大橋毅
同
松戸勉
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決主文第二項を取り消す。
2 被控訴人の控訴人に対する金員支払請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文第一項と同旨。
第二 事案の概要
一 本件は、被控訴人が、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の土地のうち同目録記載の各区画について、いずれも賃貸借契約の解除を原因とする明渡しと、控訴人の賃貸借終了による返還義務の不履行を理由に、右各区画の明渡しの断行仮処分決定に基づく執行に要した費用(六〇六万四〇〇〇円)の賠償請求を行ったものである。当事者双方の事実上の主張は、原判決の「事実」の「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
原審においては、右各区画の明渡し並びに損害賠償請求のうち六〇一万二九二〇円及びこれについての遅延損害金の支払いを求める部分が認容されたが、控訴人は、右のうち金員支払いを命じる部分についてのみ控訴した。控訴の理由は、被控訴人請求の執行に伴う費用は高価に過ぎ、控訴人の債務不履行と相当因果関係にある損害の額ははるかに低額であるというものであり、控訴人は、その余の点は本件の争点としないと述べた。
二 従って、当審における争点は、被控訴人が請求する執行に伴う費用の額が相当であるかどうかである(民訴法三七七条参照)。
第三 争点に対する判断
右争点に対する当裁判所の認定判断は、次の説示を付加するほか、原判決の理由説示のうち右争点に関する部分(原判決五枚目裏一〇行目の冒頭から同九枚目表一二行目の末尾まで。ただし、同八枚目裏五行目の冒頭から同九枚目表八行目の末尾までを除く。)に記載のとおり(ただし、原判決七枚目裏六行目の「駐車車両も」を「駐車車両の」に改める。)であるから、これを引用する。
一 右引用にかかる認定事実によれば、被控訴人は、執行の要員や機材等の準備をした五十嵐金生に対し、執行補助者三〇名の費用として三〇〇万円(一人当たり日当一〇万円)、解錠技術者五名の費用として四〇万円(一人当たり日当八万円)、移動用車両一六台の賃貸料等二一六万四〇〇〇円、雑費四〇万円の合計五九六万四〇〇〇円を支払っており、右のうち特に執行補助者の日当については高額であるように見受けられる。しかし、執行補助者は、明渡執行について債務者の実力による妨害等の危険を伴う恐れのある業務であることや、被控訴人は、控訴人から平成二年一一月末日までには本件土地の明渡しを受けておかなければ売買残代金一億円の支払いを受けることができず、日程的に差し迫っての仮処分の執行であることから、被控訴人において、執行補助者を確保するため相当高額の日当を支払う必要があったものと推認されるところである。また、一五台の高級外車等の搬出を伴う執行を容易に、かつ、搬出物品に損傷を与えることなく行うためには、右に示した準備も過剰とはいえないのであり、これらの点に、被控訴人が右費用を既に支払っていること、執行補助者の日当等、右各費用に関する相当金額についての反証がなく、本件記録上、右各費目の単価に関する証拠としては、<書証番号略>しかないこと、その他右引用にかかる原判決の説示に記された一切の事情を参酌すれば、右各金額が不当に高額ということはできない。
二 控訴人は、控訴人の側で事前に車両を搬出しており、本件執行の内容がタイヤ、消火器等約九二点程の遺留品の保管に過ぎなかったことから、実際の執行との比較において右の執行補助者や移動用車両等は過剰に過ぎると主張する。しかし、執行官及び被控訴人代理人は、本件執行の前日に、本件各区画に控訴人により施錠のされた販売用輸入自動車等合計一六台が存在するのを現認しており、控訴人の側で執行官の指示に基づき右前日中に車両を搬出したことを被控訴人に伝えていないのであって、被控訴人が、右前日における現場の状況を前提に前示の要員等を執行当日現場に参集させたとしても止むを得ないというべきであり、実際の執行との比較において執行に要する費用を算定するのは相当でなく、控訴人の右主張も失当である。
第四 結論
よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官岩佐善巳 裁判官南敏文 裁判官小川克介は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 岩佐善巳)